「3 月1 1 日」

          中 野 浩 幸

 3月11日は東日本大震災が発生した日で、今年
で5年を迎えた。又、震災による孤児・遺児は、
1,698人と発表され心が痛む。
 3月8日の例会にて、誕生日のお祝いをして頂
いたので、お気づきの会員の方もいらっしゃる
と思うが、私の誕生日は3月11日である。
 毎年3月11日が近づく時期になると、誕生日を
書くのが嫌になる。例えば、出張先でのホテル
のチェックインの他、年度末を控え、職場でも
多くの書類が更新されるたびに、私の生年月日
を部下が確認する。
 そんな中、先日、祖母が亡くなった。享年97歳、
大往生である。
 ところがである、亡くなった日が、3月11日な
のである。
 祖母は、父の実母ではない。父の従兄弟にあ
たる。父は、妹2人の3人兄弟で、小学1年の時に、
両親を亡くした。父を戦争で、母を病気で。
 祖母は、当時福岡県久留米市に良縁で嫁ぐこ
とが決まっていたが、戦争遺児となった3人が不
憫でならず、良縁を断り、3人を育てる為、田舎
に残った。生涯独身であった。
 生前、私に、おとうさんには何もしてやれな
かった。食べさせるのが精一杯で、田んぼも少
しはあったが、全部売ってなんとか3人を高校ま
で出してやったと。
 父は、当時のことは、一切語らない。
 大病を患い、施設にいる父も何とか祖母の葬
儀には出席できた。出棺の時、父が3人を一人前
に育ててくれてありがとうと言った。
 3月11日、震災の多くの孤児・遺児を思うと、
誕生日を祝って貰おうなどとは思わない。祖母
が父を育て、私がこの世に生を受けたのだから、
誕生日は、祖母を思い出し、生まれたことに感
謝する日にしよう。