「東京タワー」の中から

           杉 山 浩一郎
 
 去年から今年にかけての大ベストセラー、
リリー・フランキーの「東京タワー オカンと
ボクと、時々、オトン」を読まれた方は多いので、
はないでしょうか。私も読みました。すばらしい
ユーモア、そして強烈な感動!あまりに日常的で
空気のようで、優しくしたいと思っているけれど
後回しにしてしまう、それはオカン。本当に大切
なものは、私たちの身近にあるということをこの
本は教えてくれます。
 リリー・フランキーの考察力と文章力に圧倒
させられます。
 そこで、読んだ人には、再び感動、読んでない
人には、読みたくなるような、彼の文章を紹介します。
 オトンは面倒を見てはくれるけど、……。
 そのための時間を持ってはくれなかった。
 口と金では伝わらない大きなものがある。
 時間と手足でしか伝えられない大切なことがある。
 オトンの人生は大きく見えるけど、オカンの人生は
十八の僕から見ても、小さく見えてしまう。
 それは、ボクに自分の人生を切り分けてくれた
からなのだ。(P116)
 誰しもがかつて大きかったはずの母親の存在を、
小さく感じてしまう瞬間がくる。大きくて、
柔らかくて、あたたかだったものが、ちっちゃく、
かさついて、ひんやり映る時がくる。それは、
母親が老いたからでも、子供が成長したからでもない。
 きっとそれは、子供のために愛情を吐き出し続けて、
風船のようにしぼんでしまった
女の人の姿なのだ。(P321)
  
  母親というものは無欲なものです
  我が子がどんなに偉くなるよりも
  どんなにお金持ちになるよりも
  毎日元気でいてくれる事を
  心の底から願います
  どんなに高価な贈り物より
  我が子の優しいひとことで
  十分過ぎるほどの幸せになれる
  母親というものは
  実に本当に無欲なものです
  だから母親を泣かすのは
  この世で一番いけないことなのです 
(P443)