アセビの毒を巡って

          羽 嶋 秀 一

 春にスズランに似た花をたわわに咲かすアセ
ビは「馬酔木」と書くところからも推察できる
とおり、体の大きな馬でさえこの木を食べると
酔ったようにふらふらしてしまうほどの毒成分
を大量に含む樹木であることは有名です。
 水洗トイレがなかった時代はこの木の枝葉を
きざんで入れておくと虫除けになりました。
又、防虫効果と材の美しさから木工品の材料と
しても優れものとして使用されてきました。
 人は知恵を使ってアセビを利用してきました
が、世の中には猛毒を利用する賢い虫がいるの
です。
 ヒョウモンエダシャクという蛾の仲間はその
名の通り、幼虫、成虫共にヒョウ柄の、つまり
良く目立つ蝶類です。
 蝶は一般的に鳥を天敵としますが、ヒョウモ
ンエダシャクはアセビを食草にすることから全
身にアセボトキシンという猛毒を蓄えている
為、鳥は食べると中毒死するという学習能力に
よってヒョウモンエダシャクを敬遠してくれる
のです。
 蛾の仲間は通常、鳥が活動しない夜に飛びま
わりますが、ヒョウモンエダシャクが大手を振
って昼活動できる訳はそこにあります。
 今を生きる動植物の進化には脱帽されること
しきりですが、動植物の食う食われる関係が高
度で複雑な食物連鎖を生み出している事実を認
識することは、食物連鎖の頂点に君臨している
と思いがちな人間のエゴイズムをもう一度見直
すきっかけになる気がします。
 道端の雑草や可憐な花、か弱い虫たちの生き
る知恵を謙虚に受け止め、歩くエゴイズムの私
は、また今年も剪定・除草作業を請負っていき
ます。(笑……)