(前号より続く) 良い習慣は才能を越える

        (抜粋のつづりその73 より)
    
               佐々木常夫

「仕事で伸びる人」とは、「学力のある人」です。
といっても、学校成績のことではありません。
一般的な会社で働くには、高卒くらいの知的レ
ベルがあれば十分です。ここで言う学力とは、
自ら学びとる力。周囲の先輩のいいところ、悪
いところを見極め、いいところだけを学んだり、
本を読んだりして、その全てを自分の血や肉に
していく力です。そして学びとる力がある人は、
謙虚です。経験と知識が足りないことを自覚し、
人の話をよく聞き、自分を省みる姿勢を持って
います。謙虚でない人は、いくら能力があって
も伸びません。私の同期のうち5 人は私と同じ
東大卒でしたが、私以外の同期は皆、脱落して
いきました。頭がよく、記憶力もよく、要領も
いいのに、謙虚さが足らなかったのです。自分
の主張だけが正しいと思い込むような人は、仕
事で成功しません。
 もちろん、仕事で成功できるかどうか、出世
できるかできないかには、運、不運もあります。
あなたがいくら仕事ができても、たまたま一つ
上に同じくらい仕事ができる人がいれば、その
人のほうが重用されるかもしれません。また、
組織が求めている人材は、一つのものさしで測
れるものではありません。
 私自身、ビジネスマンとしては決して成功人
生ではありませんでした。むしろ脱落者といっ
ていい。同期トップで取締役に就任したはいい
ものの、わずか一期二年で、子会社の社長とし
て社外に出されてしまったのです。何かあれば
トップに対しても「お言葉ですが」と言ってし
まうやり方が、社内の反感を買ってしまったの
でしょう。プライベートも順風満帆とはいきま
せんでした。自閉症の長男の誕生、鬱病を患っ
た妻の繰り返しの入退院と自殺未遂、長女の自
殺未遂……そのたびに家族を助けられない自分
を責め、絶望の淵に立たされました。
 この話をすると、同情を寄せてくれる方もい
ます。しかし、人間の幸せや不幸せは、体重計
のようなもので測れるものではありません。私
が抱えていた不幸と、不登校の子供を持つ母親
の不幸、どちらの不幸が大きいかなどは、比べ
られないのです。幸せや楽しみも、同じように
比べられません、みんな、それぞれの中で、幸
せがあり、不幸せがあるのです。
 だからこそ、自分の運命は、自分で引きうけ
なければいけない。私は自分にそう言い聞かせ
てきました。皆さんも、ぜひそうであって欲し
いと思います。
  (ささき つねお= 東レ経営研究所特別顧問・
新潮45「新入社員諸君!」25 年4 月号)