『座』の宗教 藤 津 宗 久

         
 いま、お寺は椅子ブームだという。葬式の会
場もほとんど椅子を使うようになった。参列者
とくに高齢者や若者は、正座が苦手だからだ。
多くの人に利用してもらうためには、椅子はお
寺にとっても必需品になりつつあります。正座
では、足が痛くて、落ち着いてお経に集中でき
ないというわけだ。かくして、多くのお寺が椅
子を導入し始めたのである。
 しかし、この様なブームに批判もある。宗教
儀礼の中で安易に不作法は椅子座りを懸念して
いる人も多い。「思えば、椅子の座り方を日本
人は全く教えられていません。これなら、元の
方が良かった。やはり、参詣者の要望に迎合し
たのは拙速だったと反省しています」という御
寺院もおられる。
 ここで提案したいのは椅子の問題である。いま、
お寺で使っている椅子は、収納性と比較的安値
であることからアルミ製の軽いものを使用して
いる場合が多い。しかし、これらの椅子は、正
座や坐禅をすると気持ちが引き締まるのとは違い、
かえって気持ちが散ってしまうようである。
 ある、椅子の専門家は、普通の凸座面の椅子
でなく、凹座面の椅子に注目しているそうである。
材質も木製の方がいいそうです。お寺にいるこ
とを実感できること、これらの開発が待たれます。
 いうまでもなく、仏教は、仏陀の坐方を継承
しつつ今日にいたっています。宗教学者の山折
哲夫氏は、「坐の宗教、それが仏教である」と
著している。
 現代社会では、『坐』の空間が、どんどん、
正座から椅子座へと変わってきている。自宅では、
二間続きの畳の部屋がなくなり、洋間の数が増え、
『個』の空間へと変わりつつあります。