職業奉仕(Vocational Service )について

南園 義一
2006−07年度の職業奉仕月間に当たり、
ロ−タリ−の職業奉仕の考え方を述べてみたいと思います。
※ ロ−タリ−の理念(人と社会との関係)
  ◆人は皆、夫々の幸せを求めて生きて居る
といっても過言ではないでしょう。しかし、
同時に、人は周囲の人々の幸せなくしては自分も
幸福になれないと言うことを充分に知るべきです。
人は自らが幸せになるに伴って、周囲の人々を
幸せにするように務めねばならず、又、周囲の人々が
幸せになるに従って自らも幸せになることが出来るのです。
  
◆言い換えれば、私共は社会の中に共存しているのであり、
社会から、その恩恵を受けると共に、自分の言動の成果を
社会に提供し、還元して行くと言う社会的な責務を
負って居ると考えられています。
つまり、私どもは 社会を構成する当事者である事を
自覚すると共に、社会に対して自己の職業や行動の
良質な成果を提供して行く基本的な責務を負って居る
のであり、この様な自覚の上に立って、社会に対して
具体的に責任を持って行動する事を奉仕(サ−ビス)
と言ってよいでしょう。

◆このような中で、ロ−タリ−の理念とは、
先ず、人と社会の関係を理解し、自覚すると共に、
進んで社会の為に役立つ奉仕を行い、人と人の関係を
(倫理性)をロ−タリ−の奉仕を通じて高めて行く
活動なのです。
これを、「超我の奉仕」と言っても良いでしょう。
このロ−タリ−の基本理念をしっかり理解して、
次に、ロ−タリ−の職業奉仕を考えて見ましょう。

※ 職業奉仕の定義

  ◆さて、「職業奉仕」(Vocational Service)と
言う言葉は、日本の国語辞典、広辞林や広辞苑には
記載されていません。日本では、一般的には使われて
いないと思われます。 従って、「職業奉仕」と言う
言葉は「ロ−タリ−独自の言葉」と考えられます。
「職業」(Vocation )とは、生計を立てる為に
日常従事する仕事、務め、家計、生業のことを言います。
職業は、私達が生計を立てるために利益を求める事も
利潤を上げる事も必要な事であります。そして、これは自分や家族の為のものでもあります。
  
◆有名な佐藤千寿氏の書かれた「ロ−タリ−の職業奉仕とは」と
言う本の中に職業と言う言葉の分類に就いて述べられていますが、職業と言う言葉は英語で表すと良く分かるそうです。 
先ず、Jobです。Jobと言うのはpeace of worksで、要するに
 仕事、取引、請負仕事に相当するものであり、Work
これは汗を流して働く労働の仕事です。
 Business と言う言葉はbusy忙しいと言う言葉から
来ているそうです。
  
◆次に、Occupation と言う英語がありますが、
これは、occupyと言う言葉から来ているもので、
組織の中のある部署を占めている事で社会の成り
立たせる為の役割を担っていると言うことになるそうです。
 又、Professionと言う言葉はprofess(主張する、
表明する)と言う言葉から来たもので、学者、専門家、
科学者、学者、社会事業家等、専門職を持っている
人の職業を表すとされています。

◆最後に、Vocationと言う言葉ですが、これは、
voice 「神の声」から来たものです。従って、vocationと
言うのは神のお召しであって、この仕事をして人の為に
役立ちなさいと言う神様からの御達しだと考えるわけです。
このように、ロ−タリ−で言うvocationと は、
人や社会の為に役たつ事をして生計を立てることを
言うのです。これは、最初のロ−タリ−の奉仕活動の
理念と一致します。だから、ロ−タリ−の職業奉仕は
Vocational Service と言います。

※ ロ−タリ−の職業奉仕とは何か?

◆日本の国語辞典「広辞林」によりますと、
一般的には「奉仕とは、一身上の利害を離れて他人や
社会の為に尽くす事」となっています。
ロ−タリ−の奉仕の概念の根本は、先程述べた通り
ですが、要約すれば「思いやりの心を持って、
相手の身になって奉仕することである」と言えるでしょう。
思いやりの心とは「自分がこうして欲しいと言うことを
自ら進んで人にして差し上げる事です。
社会からの責務を奉仕(サ−ビス) でお返しをすると
言うことになります。
つまり、「超我の奉仕」です。
この「超我の奉仕」の考え方をポ−ル・ハリスは
「奉仕第一・自己第二」と言っていますがこの概念が
「ロ−タリ−の奉仕」の根底にあることをよく理解して
欲しいと思います。
そして、この「思いやりの心」を持って、相手の身にっなって
て奉仕することは、実はもっと複雑で、自分と他人或いは 
社会とのかかわり合いガを如何進めるかと言う点でとても重要です。
つまり、それには、Care (知り合う)、share (分かち合う)、
そして、Concern (対等にかかわりあう)と言う対等な相互関係が
必要だと私は思っています。そして、その間を繋ぐものは
「善意と寛容」です。

◆さて、ここで、職業奉仕とは、今まで申し上げました
ように、「職業と奉仕」と言う概念を結び付けると言うことになります。
職業と奉仕は矛盾すると言う人がありますが、決して矛盾しません。
自分の職業は生活の糧だけでなく、社会の為に役立つものである
ことを自覚し、私達が社会的責務として自分の職業を自ら実践して、
自分の職業に課せられた社会性を高度に充足出来ているかどうかを
何時も認識していなければならないのです。
ポ−ル・ハリスは自叙伝「我がロ−タリ−への道」のなかで、
「ロ−タリアンは、その一人一人が自分の職業とロ−タリ−の
理想とを結ぶ環である」と言っています。

※ ロ−タリ−の職業分類

◆そして、もう一つ、ロ−タリ‐には、独自の
「職業分類」があります。
 この職業分類も、正確に、良く理解して
頂きたいと思います。
 ロ−タリ−の会員は職業分類によって選ばれる
ことは、皆様、御承知と思いますが、選ばれた
ロ−タリアンは、自分の職業の業界を代表する者
であると同時に、ロ‐タリ−から「ロ−タリ‐の
理想」を自分の職業業界に伝播する為のロ−タリ−
からの代表選手であると考えられています。
業界は、現在の自分の地域の社会の現状を反映して
居るものであり、時代の変化に遅れることなく、
何時も、自分の職業と業界や社会との機能的な
「相互の理解と交流」を心がけ、業界や社会の
進歩のさきがけになるべきです。
このようにして、私達の職業としての奉仕が
業界や社会の向上に繋がることになるのです。
決して、自分の仕事の利益を上げるための活動だけ
が職業奉仕と考えないで下さい。
 
◆そして、各ロ−タリ−クラブにはそれぞれ職業分類表が
ありますが、この分類表こそ、私達が住む社会の職業の
現状を的確に反映したものでなければならないのです。
 ロ−タリ−が自分達の地域社会で「ロ−タリ−の理想」を
もって活動するために、地域の職業分布の変化に適応できる
職業分類を毎年変更し、各ロ−タリアンは「自分の職業」と
「ロ−タリ−の理想」の機能的な結合を求めて社会の変動に
適用して活動する必要があります。
時代の激変につれて、職業構造も職業への意識も変化して
いますが、この様な変化に果敢に挑み、ロ−タリ−の理想を
実現して欲しいと思います。
  
※ 四大綱領と四大奉仕
  
 ◆今まで述べた職業奉仕の基本的な考え方を理解し
上で、更に、ロ−タリ−の職業奉仕活動を進めるには、
如何したらいいでしょう?

 ◆ロ−タリ−の奉仕活動といいますと四大奉仕と言う事になります。
  勿論、四大奉仕はロ−タリ‐の目的である四大綱領に基づく
ことは言うまでもありません。
 ロ−タリ−に於いては、1915年に「倫理規範」が採択され。
1935年に「ロ−タリ−綱領」が制定されました。
綱領の4つの項目とも私達の行動目標を明確に示しているものです。
特に、第2項の「事業及び専門職務の道徳的水準を高めること、
あらゆる有用な業務は尊重さるべきであると言う認識を
深める事、そして、ロ−タリアン各自が業務を通じて
社会に奉仕するために、その業務を品位あらしめること」
と言う項目はロ−タリ−職業奉仕活動の根本的基盤を
なすもので、他の3つの項目と連携して行動されるべき
ものであるとされています。
 ロ−タリ−の奉仕活動は。クラブ奉仕、職業奉仕、
社会奉仕、国際奉仕と分かれていますが、元来は、
一体のもので、ロ−タリ−でも、1952年には、
四大綱領は同じ価値のあるもので、等しく同時に行動
すべきものと規定し、「The Objects of Rotary」 の
Objects をObjectの単数に変更しました。
以来、その綱領が現在まで続いて用いられています。

 ◆この四大綱領に基づいた活動は夫々別個の
ものでなく、一連の行動を全体として、機能的に
考えて活動した欲しいと思いますが、ロ−タリ‐の
職業奉仕は、自分の職業の利益を高める事だけではなく、
ロ−タリアン1人1人が自分の職業の質を高め、倫理的、
道徳性を高めて、社会に奉仕しようと言うことが基本です。
職業奉仕は、個人としては内部的な奉仕ではじまりますが、
次に他の人や外部の社会へと目を向け、社会奉仕、国際奉仕、
或いは青少年奉仕等のロ−タリ活動の中で、職業奉仕で得た
成果を更に他の奉仕へと広げて行くべきでしよう。

※ 「四つのテスト」と「職業宣言」

 ◆皆様御存じのように、「4つのテスト」は
大恐慌期の1932年に、有名なハ−バ−ト・テ−ラ−に
よって創案され、1943年来、ロ−タリ−の標語として
用いられ、1950年代からロ−タリアンの事業と生活の
現行の尺度として長く使用されています。
この「4つのテスト」こそ、ロ−タリ−の職業奉仕の実賎指針です。
     
「四つのテスト」
「言行はこれに照らしてから」
              
 真実かどうか
 みんなに公平か
 好意と友情を深めるか
 みんなのためになるかどうか
   
この「四つのテスト」こそ、私達ロ−タリアンの
生活や行動の尺度であり、私達が「ロ−タリ−の理想」を
実践する際の「モット−」として自発的に用いられるべき
重要な行動指針であろうと思います。

※ 職業宣言
    
1987年、RI理事会は「職業奉仕に関する声明」を發表し、
ロ−タリアンは職業において最も高度な倫理的水準を守り、
又、推進する事を再確認しました。そして、職業奉仕は
ロータリークラブと各ロータリアンの両方の責務で
ある事を強調しました。
私達は、ロータリアンとして夫々の職業奉仕を実践し、
クラブは職業奉仕の具体的な実賎例等を示しながら、
職業倫理や奉仕活動の指導的役割を果たし、
又、外部に向けても、職業相談、職業指導、職業情報、
 優良職業人の表彰等を行うべきで、特に、青少年へ
の職業教育等は積極的に行われるべきだと考えます。

職業宣言(1987年)
事業又は専門職務に携わるロ−タリアンとして、
私は以下の要請に応えんと磨るものである。

1、職業は奉仕の一つの機会なりと心に銘とせよ。
 
2、職業の倫理的規範、国の法律、地域社会の道徳基準に対し、
  名実ともに忠  実であれ。

3、職業の品位を保ち、自ら選んだ職業において、
  最高度の倫理的基準を推進すべく全力を尽くせ。

4、雇主、従業員、同僚、顧客、公衆、その他の事業
  又は専門職務上関係を持つ全ての人々に対して、
  等しく、公正なるべし。

5、社会に有用な全ての業務に対し、当然それに伴う
  名誉と敬意を表すべきことを知れ。

6、自己の職業上の手腕を捧げて、青少年に機会を開き、
  他人からの、格別の要請にも応えて、地域社会の
   生活の質を高めよ。

7、広告に際し、又、自己の事業または専門職に関して、
  これを世に問うに当たっては、正直専一なるべし。

8、事業又は専門職務上の関係において、普通に得られない
  便宜ないし特典を、同僚ロータリアンに求めず、
  又与えることなかれ。

この職業宣言は、ロ−タリ−の綱領、倫理宣言、
道徳訓などの一連の思想の流れに従って強調し、
確認するものである。即ち、ロ−タリ−の目的は
職業に関連する倫理化運動が基本と成っているのです。

◆2002年11月の国際ロ−タリ−理事会は、職業奉仕は
各ロ−タリアンの高い倫理基準に始まるもので
あることを再確認した上で、各自の職業に於いて
それを改善し、各ロ−タリ−クラブに職業宣言を
更に全面に出すよう奨励しました。

◆2004年、規定審議会は決議案(04−290)にて、
職業の倫理的規範に対するロ−タリ−の決意を
実証する事業生活の充実、育成を強調する様、
決議しました。そして、国際ロ−タリ−の決議により、
新世紀を迎え、奉仕活動の第2世紀に入るに当たり、
ロ−タリ−の高い道徳的水準を実証する個人を探し出し、
会員にするする様、決議しました。

◆又、本年、(2006年6月)の国際ロ−タリ−理事会は、
ロ−タリ−のあらゆる面での「多様性」の認識を高め、
活動に寄与するよう決議しました。多様性の認識は、
特に、文化、宗教、言語、風俗習慣、職業、性等を中心に、
職業分類や会員組織を多彩なものにし、ロ−タリ−活動を
活発にして、ロ−タリ−をより充実したものへ発展させて
行こうとするものです。

 ロ−タリ−の職業奉仕は、ロ−タリ−活動の基本的な
基盤として重要なものです。しかし、分離した単独の
活動でなく、他のあらゆるロ−タリ−プロジェクトと
機能的で、流動的な活動として捉え、ロ−タリ−活動の
基本的要素として重要なものとして考えるべきでしょう。
職業奉仕は、今、推奨されているCLPでも奉仕活動の
中核的なものとして捉えて行くべきであろうと考えます。
 各ロ−タリアンの方々が職業奉仕を固定的なものとして
捉えず、時代の変動に適応した職業奉仕活動を展開
されるよう願っています。