Yes, I can. Maybe ……

           
               尾崎 陽 一 
 
 昨年の暮に、国際学会で発表するためにブラジ
ルに行った。
 わずか10分間の発表のために往復3日間の旅
程を費やすことが気にはなったが、南米へ行く・
学会発表を英語で行うといったことどもは、これ
からの人生に2度とあるまいと思い、一念発起し
ての旅であった。
 学会発表そのものは完璧とは言えないものの、
なんとかなった。
 英語で論文を読み、原稿を書き、パワーポイン
トを作り、朗読の練習を何度も重ね、時には防府
在住のネイティブの方に発音や内容のチェックを
していただいた成果であったろう。
 そしてなによりも、この準備期間を通じて英語
に対する挫折感は、かなり克服できたように思っ
た。
 学生時代から苦手にしていた英語だったが、数
十年を経てようやくその苦手意識から解放される
日が来たのだと感じていた。しかし、そこに大き
な落とし穴が存在していようとは。
 ブラジルへ向かう飛行機の中であった。ドリン
クサービスで、炭酸飲料であるトニック・ウォー
ターが提供された。いや、こんなものを飲みたか
ったわけではない。確かコーヒーを頼んだのだ。
What would you like to drink, sir ? とアメリ
カ人のキャビンアテンダント。そこでCoffee
please. と返したはずだった。
 今回の旅行、日常英会話が散々であった。Coke
を頼めばCoffeeが出てくる。Waterを頼めば、
怪訝そうな顔をされる。
 飲み物すら満足に頼めない典型的な英語音痴を
露呈するという屈辱感を味わう羽目になってしま
った。
 読むこと書くこと、そして原稿を朗読すること
は、英語でなんとかできるようになったが、コミ
ュニケーションを取ることができないままだった
のだ。
 生きた知識を得、それを活用したいと学校に行
き、学会にも出席したが、根本的にそれを達成で
きていないことが判ったのは幸運だったのか否か。
 いやこれを糧に次のステップに進むために、次
に海外へ行った時は、コーヒーをちゃんと飲める
ようにするぞ!