一本桜の魅力

        原  俊 雄
 
 私が一本桜の魅力を知ったのは友人から島根県三隅の山奥に桜の巨木があると聞き、物珍しさ見たさに訪ねた30年以上も前の事です。当時はまだ未舗装の国道もあった山陰道から山道に入り、細い杣道を一時間も歩いてようやく目的の桜を訪ね当て、既に葉桜とはなっていましたが、その見事な樹勢に感心したことを思い出します。
 
 三隅桜の次に出会ったのが荘川桜です。それは平成3年の院内旅行で白川郷を訪ねる途中の御母衣ダムの湖岸にあって秋風に紅葉を散らせていました。
 
 荘川桜はダムの完成によって湖底に沈む運命となる樹齢450年と言われる老木を悼む村人の熱意にほだされた当時の電源開発総裁高橋達之助の尽力によって200m移動して新しい国道沿いへの移植に成功した話として有名であります。
 
 岡山県真庭の鄙びた丘に立つ醍醐桜も私の好きな桜の1つです。後醍醐天皇隠岐島配流の際、立ち寄られたという伝説の桜だけあって見応えのある枝ぶりは貫禄充分です。大山の帰りに何度か立ち寄りましたが、車は数珠つなぎの
大渋滞、一方通行で引き返しも出来ず困ったことがあります。
 
 一心行桜は熊本の南阿蘇郡白水の田圃の中にある一本桜で、平成16年の台風で主幹が折れドーム状の優美な姿が失われ、正面から見ると無残な形ですが、少し角度を変えて見ると雄大阿蘇高原を借景に前に菜の花畑を配して略扇
型の樹形を保っています。島津義久に攻め滅ぼされた峯伯耆守惟冬を弔う為に一心に行を上げたので「一心行」といわれたが古くは『一心経』と言われていたそうです。
 
 淡墨桜は岐阜樽見線の終点にあり、岩国の作家宇野千代の小説の題材ともなり、枯死寸前の樹齢1,500年の淡墨桜救済のキャンペーンを張り、樹木回生の名人によって若根を接ぎ木して再生させたことで有名です。さすが老木で背後
から見ると巨大な岩のような幹・根と、多数の支え木によって支えられた樹形は正面から見ると日本三大桜と言われるだけの生命力と老木への人々の深い愛着を感じさせるものがあります。
 
 今年の冬は寒さが厳しく長かっただけに満開の桜は何処も見事でした。2005年3月、ロータリー100周年記念事業として植樹された天神様駐車場の枝垂れ桜も例年になく見事な樹勢を見せていました。長く市民に親しまれる桜になって欲しいものであり、管理されている方のご苦労に感謝します。