被災者と生活不活発病

         原  俊 雄

 この3月11日に発生した東北関東大震災では未曾有の大量被災者を生み出し、未だに避難所生活を余儀なくされている人が多数おられます。
 避難所暮らしをしている老人などは生活の手立てを失い、広い体育館や講堂などに集団で寝起きしボランティアなどの炊き出し、救援によってかろうじて生活しており、プライバシーもなく日常の運動や活動性も妨げられて為すこと
も無く過ごさざるを得ない環境にあります。
 健康人であっても体を動かさないでいると意外に早く筋肉が萎縮し関節も硬縮を起こします。
 2004年の新潟中越地震では被災高齢者1626人中496人が歩きにくくなり、うち4割は5ヶ月後も回復しなかったといいます。
 生活不活発病というのは言わば廃用性萎縮による二次的な運動機能障害ですが、何もしない生活というのは身体機能だけではなく認知機能や精神的にも様々な影響を及ぼす事が知られています。
 また、高齢者であっても一定の運動を継続することによって加齢による認知機能の低下を抑えるという多くのデータも報告されており、運動は精神を健全に保つ為にも必要です。
 震災によって家財の全てを失い、家族や愛する人を失い、或いは助けようとして助けられず震災直後の高揚した気分は落ち込み、うつ状態になったり、また恐怖がよみがえるフラッシュバックに悩まされ、中々立ち直れない人も見られますので被災者の気持ちをしっかりと支える心のケアも大切ですが、現況は中々大変なよう
です。
 医師会や精神科関係でも診療所協会、保険医協会など色んな団体を通じて援助の手を差し伸べていますが、個人的にボランティアとして入り込むのは困難な状況のようです。それだけ多くの人々が関わっているということであり、復
興への厳しい道のりは官民一体の息の長い取り組みが必要であり、何より前向きの強い気持ちが必要でしょう。
 新聞によると2007年のIMで特別講演をされた『森は海の恋人』を合言葉にカキの養殖の為に植林活動をされている気仙沼畠山重篤氏は養殖イカダや加工場など全てを流されたそうですが、それでも津波の後の方がカキはよく育つと
前向きに捉え気持ちの揺るぎは無いとのことです。