オオバコ(車前草)の戦略

          羽 嶋 秀 一
 「オオバコ」という植物をご存知でしょうか?
漢方薬の原料として有名で、庭のあちこちに生
えているとても身近な存在であり、根が多く除
草しにくい厄介者つまり雑草の代名詞的植物で
す。
 さてオオバコといえば「山の中で道に迷った
ときに、オオバコの生えている方向をたどれば
人家にたどり着く」という昔からの言い伝えが
あります。人間の生活のある所にオオバコあり
といったところでしょう。
 じつはこの言い伝えは、オオバコの見事な戦
略の裏づけとなっているのです。オオバコは草
丈の低い地味な植物です。草丈が低いというこ
とは例えば草丈の高いカヤのような植物と一緒
には光不足で育ちません。そこでオオバコは踏
まれても簡単にちぎれない葉と四方八方に広が
る根を持つという進化を果たしました。
 更にオオバコの実は粘液性があり人の靴底や
車のタイヤにくっついて新たに生活圏を広げて
いく、つまりオオバコは自らが生きる為に人間
を利用したのです。オオバコを「車前草」とす
ることの所以であります。
 オオバコにとって踏まれて耐える代償に種子
を人間に運ばせる戦略は競争社会を避けて平和
に暮らせる唯一の手段だったのでしょう。
 オオバコに利用されるだけなら共生して喜び
も沸いてくるのですが、もはや人間が制御でき
ない核に足元をすくわれたくはないものです。