銀行員の悩み

        原 元 典 夫
 秋が深まり、寒くなってくると単身赴任は、
寂しさが増してくる。
 5LDKの古い社宅、真っ暗な寒い部屋に帰って
くると「ふっ」と、ため息が一つ。
 前任地の東京には女房一人、子供一人付いて
きて一緒に生活していたが、子供の学校の関係
で当地では半単身赴任となった。
 半単身赴任というのは、女房が、私と子供
(松山)の間を行ったり来たりして月のうち半分
防府に来る約束をしたものである。
 しかしながら御多分に洩れず、なんやかんや
と理由をつけてはこちらに来るのを拒み、子供
の所に居ることが多く、独り寂しく秋の夜長を
過ごす事になる。
 しかし、独り寝も良い事が沢山ある。部屋の
電気を消し忘れ、煌々と電灯をつけたまま寝て
も誰にも怒られない。テレビをつけっ放しに
し、延々ショップチャンネルが流れ続けていて
も軽蔑の眼差しを向ける者も無い。せいぜい鬼
の居ぬ間に羽を伸ばしたいと思う。
 さて、真面目なお仕事の話。今、金融界で問
題になっているのは2009年12月、時の亀井静香
金融大臣の肝いりで出来た、中小企業金融安定
化法の行方。
 借入金返済が困難になった中小企業事業者が
一定の条件の下、借入金の返済を猶予されると
いうもの。
 一定の条件といっても、事業の改善計画があ
ればよく、たとえそれが絵に描いた餅でもかま
わない。
 結局、申請すればほとんどが認められてき
た。結果、金融機関には、この法律によって総
貸出の10%、実に44兆円が返済猶予債権になっ
ていると言われている。
 銀行の公表不良債権の平均は2%半ば、実はこ
の返済猶予債権はほとんどが不良債権として認
識しなくても良い事になっている。
 総貸出の1割にも上ると言われるこの不良債権
予備軍、今後どう処理していくのか、企業をど
う立て直していくのか、悩みは深まるばかりで
ある。