クレド

        金田練二郎
 
アベノミクスによってインフレの芽が出始め
た日本経済ですが、低価格を重視する風潮がす
ぐに変わる訳ではありません。それでも、将来
的なインフレ到来の可能性を疑う余地はありま
せん。そういった中で、デフレ環境の下でも、
高級志向のサービスで成功してきた企業が、今
後大きな飛躍の可能性を秘めているように感じ
ます。その企業代表格であり、2014年に国内4店
舗を京都にオープンする『ザ・リッツ・カール
トンホテル』を例に、今後の企業とサービスの
あり方について考察してみました。
 リッツ・カールトンのサービスと言えば、多
くの書籍でも紹介されていますが、満足以上の
【感動】を与えることで人気があることは周知
の事実です。しかも、広告宣伝費は一切かけ
ず、従業員1人1人が与える顧客への感動がクチ
コミとなって人気を博しているのです。その感
動を与えるサービスを実現するに当たり、スタ
ッフの共通の価値観となっているのが≪クレド
≫と呼ばれる全従業員が携帯しているカードで
す。クレドとはラテン語で「志」「信条」「約
束」を意味し、最近では「経営理念」を表す言
葉としても定着してきています。このクレド
基に、顧客に満足いただける具体的な行動にま
で落とし込んでいく訓練を、入社1年目に300時
間も受けるそうです。
 こうした厳しい研修を経て現場に立つ従業員
には、トラブル対応のために2000ドルまでの個
人裁量による支出が認められます。これこそが
宣伝費と言っても過言ではありません。一例で
すが、パスポートをホテルに置き忘れた顧客を
追いかけて、大阪から東京まで新幹線に乗って
届けたというサービスがあったそうです。大げ
さと言えばそこまでですが、ホテルが掲げる
クレド≫の精神に則り、従業員が自ら考えて
行動した結果です。しかも、企業がこれをリス
クと捉えず、宣伝広告費として前向きに捉える
経営方針にも驚かされます。
 リッツ・カールトンの掲げる≪クレド≫によ
るサービスが今後のインフレでも十分に効果を
発揮し、大きな収益に繋がって行く可能性が見
えてきます。サービスに感動を覚え、それに対
する対価を払う。このようなサービスこそが、
本当の意味でデフレ脱却に必要なことなのでは
ないでしょうか。