最近の出来事に関して 〜人民元切り下げと日本経済

          田 辺 一 政

 通貨の切り下げは、通貨当局(中央銀行)が公定の為替
レートを自国通貨安の方向に変更し(例:1米ドル=6.2人
民元→6.3人民元に変更)、自国通貨の価値を引き下げる
ことをいいます。中国では通貨当局が基準値を定めて人
為的に為替レートを管理する『管理相場制』を採用して
おり、通貨当局が任意に為替レートを変更することが可
能です。一方、日米欧の通貨の場合は、為替レートは市
場原理で決まる『変動相場制』を採用しているため、通
貨の切り下げはできません。
 通貨の引下げは、公定の為替レートを変更することで、
自国通貨安を人為的に起こそうとするものです。そして、
輸出を活発化させ、製造業の振興につなげようとします。
(ただし、あまりに安すぎると輸入品の物価や原材料価
格の高騰、それによる急速なインフレの進行といった副
作用が大きくなる)
 中国の中央銀行である中国人民銀行は8月11日に対米
ドル為替レート基準値を1.8%引下げ、12日、13日も連
続して1%以上引下げました。中国経済の減速を和らげ
るために製造業への振興策が必要であったことに加え、
中国人民銀行人民元の為替レートが市場の実勢に比べ
て高く設定されていると判断したことが挙げられます。
 人民元の切り下げは世界経済における中国経済の存在
感の大きさもあって、幅広い分野に影響を及ぼしていま
す。もっとも影響を受けるのが、中国以外に立地する製
造業や、輸出が盛んな国です。これは、人民元の切り下
げによって中国に立地する製造業の価格競争力が、その
他の国や地域に立地する製造業に比べて相対的に高くな
るためです。また、かねてから懸念されていた中国経済
の減速、それによる世界経済の落込みが切り下げによっ
て現実のものとなったことで、世界的に株式市場や商品
市場が下落するようになっています。
 中国は、日本にとって大口の貿易相手国かつ投資先で
す。中国の製造コスト上昇を受け、製造拠点を他のアジ
アの諸国に移す動きもありますが、依然として重要な製
造拠点です。人民元の切り下げは次のような影響を日本
経済に及ぼすと思われます。
・中国からの輸入増加、中国産製品の価格下落による
 物価押し下げ
・中国から得られる円建て利益の減少
 また、訪日中国人観光客の需要、いわゆる『爆買い』
に代表される買い物需要に大きな影響を与える可能性が
あります。円はこれまで比較的安く推移してきたため、
訪日中国人観光客にとって日本での買い物に割安感があ
りました。人民元の切り下げによって円が高くなり、か
つてのような割安感はなくなっています。そして、既に
中国の経済減速が起きていることを踏まえると、今後中
国人が訪日観光を見合わせる、買い物を控えめにする可
能性も否めません。
いずれにしても、GDP世界二位である中国の動向に目
が離せない状況であることに間違いはないと思います。